本日の日経にとうとう決算短信の簡素化が記事になった。スチ研でも議論されたところであるが、金融審議会のWGでは熊谷さんが四面楚歌の中反対を唱えていたのにほとんど無視されてしまった。要はいままで義務であった短信1枚目のサマリー情報は要請となり、P/LやB/S、注記などは開示を「判断を誤らせなければ」後からでもいい、経営方針などの開示は「任意」とするものである。
確かに決算短信になくてもよいような文章もあるが、これは完全な後退である。私のコメントは以下のとおり。
決算短信は企業と投資家の対話のためには最も重要な書類の一つであり、投資家はこれをベースに企業の業容判断をし、決算後の対話を行っている。しかし、売上、利益、純資産といった最も基本的な情報ですら開示を要請することにとどめ、資産や利益の中身についての開示は後日でもいいという規則が定まりつつある。金融審議会で議論され、2017年3月期から適用するということになっている。
そもそも利益や資産を計算する段階で、さまざまなコストや資産価値の詳細も企業は把握しているはずで、そうした情報を開示しないと、在庫を膨らませているのではないか、利益が水増しされているのではないか、と懸念されるであろう。また、基本的なデータを欠いた情報での投資がなされることにより投資家が間違った判断をし、株価の乱高下も起こり得る。
企業が一度の決算で出す書類が、決算短信、有価証券報告書、会社法による開示と基準も違い手間もかかるため、なるべく簡素化したいことは理解できる。ただ、こうした議論が利用者である投資家の反対を無視して実務に携わらない役所や一部の企業、有識者の議論で進むことに危うさを感じる。
せっかく進みつつあるガバナンス改革ではあるが、基本的なデータの開示をしない・させないことを許容し、開示がきちんとなされれば避けられる市場の欠陥をわざわざこしらえようとしているのは、停滞気味の安倍政権の進まない改革のあせりであろうか。ガバナンス改革には時間がかかるものであることを許容し、少なくともこのような後退はしないようにすることが肝要であると考える。
以上