鶴光太郎・KO教授 [日経2017.5.15.経済教室]
米スタンフォード大学のニコラス・ブルーム教授らは、中国の旅行会社、シートリップのコールセンターの従業員が9カ月間、在宅勤務とオフィス勤務にランダムに割り当てられるという実験を活用し、生産性(通話量)を定量的に把握した上で在宅勤務の従業員はパフォーマンスが13%上昇したことを示した。 このうち4%分はより静かで居心地の良い環境下で生産性が増加したことによるものだが、9%分は休憩時間や病気休暇の減少による労働時間の増加に起因するものであり、見かけの生産性向上の中には労働時間増も含まれていることを明示した。
米オハイオ大学のグレン・ダッチャー助教の論文は、大学生を実験室内と外にランダムに分けた上で、タイピングのような単調な作業とより創造性の必要な作業をさせるという実験を行った。実験室の外、つまりテレワークに近い状況では、単調な仕事は室内に比べて生産性が6~10%低下する一方、創造性を要する仕事の場合は11~20%増加することを示した。これは単調な作業の場合、同僚から見られていることで生産性が高まっていることを意味している。全国チェーンのスーパーマーケットの個々のレジの生産性を比較することでピア効果(集団の中でお互いが刺激される効果)が実際に働くことを確認した米プリンストン大学のアレクサンドル・マス教授らの論文や、封筒に手紙を入れる単純作業の実験でやはりピア効果を明らかにした独ボン大学のアルミン・フォルク教授らの論文とも整合する結果だ。
創造的な仕事が重要、無意識のうちに長時間労働に結びつく可能性が高い、などが指摘された。